CHAPTER 1

- 仕事と成長 -

PART

02

仕事とは?

【この章で学ぶこと】

・「仕事」とは何かを理解し「作業」との違いを認識する。

第1章では、働く理由や動機について深く考えることの意義について説明しました。第2章では、「仕事」とは何かについて説明します。その際に「仕事」と「作業」との違いを正しく理解する必要があります。


「仕事」と「作業」の違い

社会人になると「仕事」をすることが求められます。では「仕事」とはいったい何でしょうか? また、似たような言葉に「作業」がありますが、「作業」との違いは何でしょうか?
課題
「仕事」と「作業」の違いを考えてみましょう。


「仕事」と「作業」の定義はさまざまだと思います。使い分けずに同じ意味で使っていることもあります。私は、

「仕事」とは、「世の中の課題を解決すること」

だと考えます。世の中には数え切れないほどたくさんの課題がありますが、それらの中から「解決すべき課題を見いだし、優先順位をつけ、最短距離で解決する」のが「仕事」であると考えます。

一方、「作業」とは、「与えられた業務を、決められたプロセス・方法に従って、期限までにミスなく完遂すること」であると考えます。「仕事」と「作業」の違いを以下のとおり整理しました。

チャート

「仕事」と「作業」の違い

アルバイト経験のある人は多いと思いますが、アルバイトの業務はその多くが「作業」に分類されます。そこでは基本的に業務マニュアルに従い、与えられた業務を期限までにミスなくこなすことが求められます。給料は働いた「時間」に応じて支給されることが多く、裁量が与えられることもありますが、その裁量は限定的である場合がほとんどです。

インターンシップも「作業」に近いものだと言えます。基本的に課題が与えられ、その課題を決められた型の中で解決することが求められます。

一方「仕事」は、まず自ら課題を見つけるところからスタートします。その上で「重要性」や「緊急性」に応じて、それらの課題に優先順位をつけます。そして、役割分担やスケジュール設定などのプランを立て、進捗を確認しつつ軌道修正しながら、最短距離で課題を解決していきます。

「仕事」と「作業」を明確に区分することは難しいですが、社会人の場合、最初は「作業」がほとんどで、次第に「仕事」の比重が高くなり、役職が上がるにつれ「仕事」が多数を占めるようになります。アルバイトやインターンシップの場合、「仕事」も多少ありますが、「作業」の比重が高いということです。「仕事」と「作業」では、求められることが大きく異なるということを認識する必要があります。

課題
今、アルバイトやインターンをしている人は、人が担当している業務を「仕事」と「作業」に区分けしてください。

商社に入社すると、まず、先輩たちが作成した業務マニュアルに従って、「作業」を繰り返しおこないます。これは、商社に限らずどの業界でも同じです。これらの「作業」を通じて、ビジネスの基礎知識、会社のルール・仕組み、仕事の進め方、コミュニケーションの取り方(=報連相(*))、コンプライアンス(法令順守)の重要性などを学んでいきます。必ずしもワクワクするような業務ばかりではありませんが、将来の活躍の土台となる重要な期間となります。

商社ではこの基礎期間に、トレードの「受け渡し」を通じて「モノの流れ」を理解し、「予算・決算管理」を通じて「カネの流れ」を理解し、「業務報告」の取りまとめを通じて「課の業務や顧客」を理解します。まずはこれらの「作業」を習得することが求められます。

(*)報連相=「報告」「連絡」「相談」の略語。ビジネスにおいては「報連相」をしっかりおこなうことが基本とされている。

同じ「作業」をしていても、しばらくするとその習熟度に個人差が生まれます。「作業」を何の疑いを持たずに繰り返しこなす人と、「作業」の中に「仕事」を見いだす人、つまり「作業」の中に課題を見つけてその課題を解決しようとする人に分かれていきます。たとえば後者は、従来の業務プロセスの中に非効率なところを見つけ、それをプロセスの見直しなどによって解決しようとする人です。できるだけ早く「仕事」の比率を高められる人の方が、当然ながら成長のスピードは速くなります。
「作業」ができるからといって、自分のことを「優秀な人材」と思っている人は結構いるものです。たとえば、定型的な社内手続き業務(すなわち「作業」)をそつなくこなすことはできますが、それで満足してしまっているような人です。このような人は社内ルールに精通し、社内人脈を構築していますが、そこで成長は止まってしまいます。

「仕事」と「作業」の違いを詳しく説明した理由の一つ目は、「成長」に関するものです。同じ時間を費やすとしても、「作業」よりも「仕事」の方がより成長できるのです。できるだけ早く「作業」を習得し「仕事」に軸足を移し、また「仕事」の中でも難易度の高い「仕事」を任せられるようになると、「成長」は加速していきます。

二つ目の理由は、ロボットやAIなどの「テクノロジー」に関連することです。「作業」や単純な「仕事」の多くは、将来、人間の代わりにロボットやAIが担うようになると予想されており、すでにその流れが始まっていることは、みなさんも認識しておられるでしょう。2013年に、オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーンとカール・ベネディクト・フライが「THE FUTURE OF EMPLOYMENT(雇用の未来)」という論文を発表しました。将来多くの仕事がロボットやAIによって淘汰されるという内容で、具体的な職業リストも公表されましたので、かなりのインパクトがありました。

Carl Benedikt Frey and Michael A. Osborne(2013年)『THE FUTURE OF EMPLOYMENT』

「仕事」と「作業」の違いをしっかりと理解し、「仕事」ができる人材、つまり「世の中の課題を解決できる人材」を目指していくことは、社会人にとって、また商社パーソンにとって最低限求められることだと考えます。


世の中とは? 課題とは?

「仕事」とは「世の中の課題を解決すること」と定義しました。それでは「世の中」や「課題」とは、何を指すのでしょうか?

まず「世の中」についてですが、ここでは「すべて」と定義し、特に何かに限定することはしません。日本に限らず世界中の「人」「社会」「ビジネス」などすべての地域・領域を指すこととします。その中には自分の勤めている会社や組織も含めることとします。

では「課題」とは何でしょうか?

課題
世の中には、どのような課題があるか考えてみましょう。

ここでは、

「課題」を「あるべき姿・理想の姿と現実との差」

と定義します。

「あるべき姿・理想の姿」も「現実」も常に変化し続けていますので、その差である「課題」も変わり続けています。課題の対象範囲は、グローバルベースの社会的課題から日常生活の不便さまで幅広く、またそれぞれの課題の「重要性」「緊急性」「難易度」もさまざまです。さきほど「仕事」とは「解決すべき課題を見いだし、優先順位をつけ、最短距離で解決すること」と説明しました。このように課題は多岐にわたりますので、「仕事」はそう簡単ではありませんが、その分、やりがいも大きいということです。さてもう少し課題について説明していきましょう。

課題
SDGsについて詳しく調べてみよう。

みなさん「SDGs」はご存じですか?「SDGs」は「エスディジーズ」と読みますが、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)のことを指します。これは、2015年9月の国連サミットで採択された持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成された2030年までの国際目標です。すなわち「SDGs」は世界の解決すべき社会課題を整理したもので、グローバルベースでこの課題の解決を目指していくものです。

チャート

SDGsの17のゴール

日本に目を向けると、「少子化」や「高齢化」が世界でも例を見ないほど急激なスピードで進行しています。それに起因する課題、たとえば経済の縮小であったり、過疎化の増大などの社会課題が発生しています。

「ESG投資」という言葉もここ数年、よく聞くようになりました。「ESG」とは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字をとったものですが、「ESG投資」とはESGに配慮している企業を重視・選別して行う投資のことです。この「ESG投資」は、特に欧米において急激に拡大しており、日本でも同様の動きがあります。つまり、企業はもはやカネ儲けだけをしていればよいわけではなく、事業の社会的意義や成長の持続性が問われるようになったのです。

今、世の中が大きく動こうとしています。それは大きなビジネスチャンスが生まれていることを意味しています。社会課題をイノベーションにより解決する動きが今後加速していくことは確実だと思われます。

ビジネスの世界をもう少し見てみましょう。

ここ数年もっとも話題になっていることの一つに「Amazon Effect」があります。Amazonは「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」を企業理念として掲げ、eコマースをはじめお客様にとってメリットのある革新的なビジネスを次から次へと展開し、急成長を遂げています。Amazonにとっての課題は、お客様の利便性をいかに高め世の中を便利にしていくかということですが、逆にAmazonによって淘汰(Disrupt)される既存ビジネスにとっては、Amazonにどう立ち向かい、Amazonを上回るサービスをいかに生み出していくかが課題となります。

Uber、Airbnb、メルカリなどのシェアリングエコノミービジネスを行っている企業は、インターネット上のプラットフォームの提供により、個人間で商取引を行うことを手助けし、収益を上げています。このようなC to C(Consumer to Consumer)ビジネスの台頭は、従来型のB to B(Business to Business)やB to C(Business to Consumer)ビジネスを行っている企業にとっては大変脅威となります。このようにテクノロジーを活用した革新的なビジネスモデルを生み出している新興企業と、従来型のビジネスモデルを踏襲している既存企業との間には、こうした対立図式が至るところに見られます。商社にとっても、このようなDisrupterと呼ばれる新興企業にどう立ち向かっていくかが大きな課題であると言えます。

もっと身近なところでは、たとえばバイト先の居酒屋の隣に、人気居酒屋チェーンのお店が新規オープンしたとします。新しいお店に客を奪われれば、売り上げが減少してしまいます。売上を維持するために、メニューや価格の見直し、サービスの向上、店の清潔さの向上などの策を講じる必要が生じるでしょう。コスト削減のため、非効率なオペレーションの見直しも課題となります。また、人手不足の問題も生じるかもしれません。

このように世の中には多岐にわたる課題があります。これらの課題の解決に向け、主体的に取り組んでいくことが、これからのビジネスパーソンにはより一層求められていきます。

【まとめ】

・「仕事」と「作業」の違いを認識し、「仕事」を通じて人はより成長することを理解する。

・世の中において、どこにどのような課題があるかを常に意識しておくことが重要である。